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[のじのじ先生ブログ]『何故3人称単数現在形にsが付くの?』

中学生の時に3人称単数の現在形の動詞には必ず - s が付くと習ってから、私たちは3単現の - s として覚えてきましたね。では、何故そうなるのでしょう? ほとんどの人がそうするルールだからと覚えてきただけで、その理由は知らないでしょう。何故だと思いますか? それは、その答がそのことが事実だからです。そう。これが正しい回答なのです。


その事柄が現在時制において事実でない時には、3単現でも - s は付きません。例えば、彼は毎日学校に行くは、He goes to school every day. ですね。彼が学校に行くことが事実だから、goes となります。しかし、 He go to school every day. と表現しなければいけない場合があるのです。「(無理かもしれないけれど)彼が毎日学校に行くことを強く願う」と言うような願望を表わす動詞や形容詞が付いた英文の場合です。I desire that he go to school every day. または It is desirable that he go to school every day. となります。


主語がheとなっているのに - s が付いていないので、ネイティブは実際にはそうなっていないが、そうなることを強く願っている表現だとピンとくるのですが、日本人は - s が付いていないので、付け忘れのタイプミスだと思ってしまうことになります。例えば不登校の子供が学校に行けるようになったら良いのにと願っているような時には、3単現の - s は付きません。


これは仮定法による表現です。仮定法現在では、主語が3人称でも動詞は原形のままになるのです。今回はこの仮定法現在だけに絞って解説します。I wish ~ の表現や If S + 過去形の表現の仮定法過去については別の機会に説明しましょう。


仮定法の解説の前に大事なことを説明します。ヨーロッパ言語は「事実」と「意見・想い」を明確に分けて事実の表現では動詞の語尾を変化させます。「事実」と「自分の頭の中にある想いや妄想」をハッキリと分ける文化がありました。「事実」と「意見」は全く違うのだという考えが根本にあります。事実であれば、事実であることを相手に伝える為に動詞の後ろに何かの文字を付ける。これが欧米の文化です。英語の歴史を辿ると、それが事実であれば、1人称でも2人称でも動詞の語尾に文字を付けていました。1人称では - e、2人称では - est、3人称では - epが付いていました。 3人称の場合、実は - pではなく、- pの左の縦線が少し上に伸びた形でソースと言う文字で発音はスでした。それが似た発音の - s(エス)に変化していきました。このソースと言う文字は現代では存在しません。古い英語の「help(助ける)」を例にして動詞の現在形の変化を見てみましょう。複数形でも変化しますが、その説明は省略します。

1人称  helpe

2人称 helpest

3人称 helpep 後に helps

1人称の - eと2人称の - estは、その発音が不明瞭でだんだんと消えて行き、3人称の - sだけが現在でも残っていると言う訳です。


ここで3人称とは何かを考察をしてみましょう。1人称は私、2人称はあなた、3人称は私とあなた以外ですが、別な見方をすると、3人称とはその場にいない人となります。これが重要なのです。つまりその場にいない人の実際に起きた行為を述べる時に、動詞に - s を付けて「これは事実です」と相手に伝える役目です。1人称と2人称では、お互いに事実でないと分かった場合に、その場のコミュニケーションで言葉の訂正が可能ですから、動詞の語尾に変化を付ける必要性がだんだんと薄れてきたと考えられます。そして現代では消えてしまいました。私は大学時代に第2外国語としてフランス語を選択しましたが、フランス語では今でも1人称・2人称の語尾変化が残っています。その複雑な語尾変化を覚えるのが大変でした。


では、本題の仮定法に入りますよ。

仮定法を解説する時には、どうしても表現方法の「Mood」を説明する必要があります。英語の表現方法には、3種類の「Mood」があります。どの英文法書にも「法」と訳されていますが、意味が良く分かりません。「Mood」とは、それを語る人の「気持」のことなのです。心の中にある気持ちです。その気持ちによって動詞の形を変えるルールを欧米人は作って来たのです。次の3つの気持ちです。

1. 直説法(Indicative Mood)

実際に起こった事実をそのまま述べて自分の気持ちを一切入れない表現

     動詞の現在形(3単現なら -s が付く)、過去時制なら過去形

2. 命令法(Imperative Mood)

まだ実際には行なってないが、これから行なってほしいと言う気持ちを出す表現

     動詞の原形

3. 仮定法(Subjunctive Mood)

実際には違うけれど、仮定の話として自分の気持ちや想いを述べる表現

     動詞の原形

直説法の漢字を間違える人がいますが、「直接」ではありません。事実をそのまま直(すなお)に説(と)く法ですから直説法です。


前の例文を使って現在時制で説明してみましょう。

1. 事実として彼が毎日学校に行っている状況では、直説法を使ってHe goes to school every day.     

2. 事実として学校に毎日行っていない状況で、これからは行きなさい!と言いたい時は、命令法を使ってGo to school every day!   

3. 事実として彼が毎日学校に行っていない状況で、無理かもしれないが彼に学校に行ってほしいと強く願う時は、仮定法を使って、I desire that he go to school every day. または It is desirable that he go to school every day.     


仮定法は、本当は叙想法と言うべきです。いを述する用法だからです。「仮定」と言う言葉のイメージに引きずられて、 if の「もし」を考えてしまうので、仮定法の本質をなかなか理解できません。大事なことは事実でないことを頭の中で想像・妄想する時の表現方法だと理解することです。多くの人が「もし~であるならば」と言う仮定の時に仮定法を使うのだと思っているために、I desire that he go to school every day. の文が仮定法だと聞いても、良く分からなのです。 He go to school every day. となる状況を頭の中で想像するので叙想法つまり仮定法を使うのです。これが仮定法現在なのだと理解して下さい。


では、いよいよ具体的に解説します。


1. 命令系統の動詞であるsuggest that … の構文では、動詞は原形となる。         命令・提案・要求を表わす動詞が多いです。命令系統の動詞の例は、advise、ask、demand、 insist、order、 propose、 recommend、suggest、 request 、require などです。

動詞の原形が基本ルールですが、イギリス英語ではshouldが入れます。いくつかの文法書で米語では shouldが省略されると書かれていますが誤りです。省略ではありません。動詞の原形が基本ルールで、むしろイギリス英語ではshouldが加えられているのです。最近ではイギリスでも米語のように原形で使うことが多いと言われています。何故原形になるのか?それは前に説明した命令法にもつながるのですが、that に続く文は主節の主語の人物が頭の中で実現してほしいと思っている事柄が来るので、原形となるのです。

I recommend that you visit Kyoto.      私はあなたに京都見物を勧めます。

I suggest that the plan be postponed.    私はその計画を延期することを提案します。

The doctor advised that she remain in bed for a few more days.  医者は彼女になお4、5日は寝てなさいと言った。


2. 必要・願望を表わす形容詞を使って、it is necessary that … の構文では、動詞は原形となる。 必要・願望を表わす形容詞の例は、advisable、compulsory、crucial、desirable、 essential、fair、Imperative、important、necessary、proper、vital などです。

上記の動詞と同様にイギリス英語ではshouldが入ります。

It is necessary that we be prepared for the worst. 私たちは最悪の事態に備える必要がある。

It is important that exception not be made.   例外を作らないことが重要である。

It is desirable that you get there by tomorrow. 明日までにそこに到着することが望ましい。

3.If 構文で現実に起こり得ないことを仮定する場合に、動詞は原形となる。

If it rain tomorrow, the game will be cancelled.   もし明日雨が降るならば、試合は中止 になるだろう。


この基本を理解した上で直説法と仮定法の違いが分かる例文を紹介します。ポイントは3単現の – s があるかないかです。

直説法:If it rains tomorrow, the game will be cancelled.

明日雨が降れば、試合は中止です。 

明日の天候がどうなるか分からず50%の確率のような状況

仮定法:If it rain tomorrow, the game will be cancelled.

明日雨が降ると仮定したら、試合は中止になるだろう。

天気予報では明日快想が出ていて雨になる確率がほとんどないような状況

直説法:It is important that he knows the truth.

彼が事実を知ることが大事である。

実際には彼はもう事実を知っている状況

仮定法:It is important that he know the truth.

彼が事実を知ることが大事である。

実際には彼はまだ事実を知らない状況


次の例文は英文法大家の江川泰一郎先生の「英文法解説」(金子書房)からの引用です。動詞のinsistには「主張する」と「強く要求する」の2つの意味があるので、前者が直説法で、後者が仮定法で使われます。ほとんど同じ文章ですが、全く意味が違うので紹介します。

直説法:Mrs. Randolph insisted that her daughter always came home early.

ランドルフ夫人は娘がいつも早く家に帰って来ていたと主張した。

主節が過去だか従属節の中も時制の一致で過去になっているので、直説法だと分かります。事実の主張です。誰かに娘は早く帰宅していたと訴えている文です。

仮定法:Mrs. Randolph insisted that her daughter always come home early.

ランドルフ夫人は娘にいつも早く家に帰ってきなさいと言い渡していた。

仮定法には時制の一致がないので従属節の中の動詞は過去形とならずに原型のままです。ランドルフ夫人の強い想いが入っていて、娘に「いつも早く帰ってきてね」と言い渡している文です。


では、今回の解説のおさらいとして、試験に出る問題例を考えてみましょう。次の問題で(  )の中には何番が入るでしょうか。

I demand that he ( ) me back the money.   ① will pay  ② pays  ③ pay

初めにdemandがあるからthat節の中では動詞の原形が来るルールでしたね。正解は③ですね。でも、何故①と②がダメかを考える必要があります。彼からの返済が難しいと思うけど、「とにかく早く返して―」と強い気持ちを表わした英語です。①と②は直説法ですから、①では事実として数日以内に返すことになり、②では今返すことになってしまいます。まだ返すことが分かっていない状況で返済してほしいと要求しているので、仮定法を用います。事実として彼は未だお金を返していないから、直説法の①と②は使えません。彼からの返済が数日以内にあることがハッキリと分かったとしたら、次のような直説法による英語を言う事ができます。I know that he will pay me back the money within a couple of days.


最後に、このような仮定法の解説を書いている時に、いつも思い出すのが何十年も前に読んだ村上春樹の小説「ノルウェイの森」の一節です。下巻の63ページに「緑」と言う女の子と主人公「ワタナベ君」との会話です。

「ねえワタナベ君、仮定法現在と仮定法過去の違いを説明できる?」と突然僕に質問した。

「できると思うよ」と僕は言った。

「ちょっと訊きたいんだけど、そういうのが日常生活の中で何かの役に立ってるの?」

「日常生活の中で何かの役に立つということはあまりないね」と僕は言った。「でも具体的に何かに役立つと言うよりは、そういうのは物事をより系統的に捉えるための訓練になるんだと僕は思っているけど」


ノーベル文学賞候補の大作家は仮定法現在仮定法過去の違いをもちろん分かっているのでしょう。私が感動したのは、日常生活で役に立つかではなく、物事をより系統的に捉える訓練になるという部分です。文法の細かい違いを理解しようとする行為は系統的に物事を捉える訓練になると言う考えに同感です。


何故3単現に - s が付くかを深く考えることは論理的思考の訓練につながるのだと私は思います。


今回はちょっと長くなってしまいましたね。次回も面白い英語の話題を届けましょう。

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