[のじのじ先生ブログ]『世界地図帳を何故Atlasと言うの?』
今回は「世界地図帳」のことをAtlasと言う理由といくつかの国名の由来について紹介しましょう。
ロシアがウクライナに軍事侵略し、多くのウクライナ人の悲惨な状況を毎日TVニュースで見せられ、早く戦争が終結し以前の平和な日常がウクライナに戻ることを心から願うばかりです。このような状況を見て、ウクライナやその周辺諸国のことを知りたくて世界地図を広げて見てみたら、いくつか他の地域で気付いたことがありました。
私の本棚に平凡社の「Premium Atlas・世界地図帳」があります。一枚の地図はmapですが、そのmapがたくさん集まったものが、地図帳でatlas と言います。a book of maps がatlasです。では、その世界の地図帳を何故Atlasと言うのでしょうか?
Atlasのアトラスはもともとギリシア神話に出てくる巨人の神様の名前でした。この神様はゼウスの神に背き、その罰として西の果てに追放され天空を両肩に乗せて支えるように命じられたそうです。怪力のアトラスが天空を肩に乗せている姿の絵を見たことがある人もいることでしょう。アトラスが世界を持ち上げていることから世界地図をAtlasとなったのです。また、ギリシア神話によるとアトラスが天空を支えて立った大地がアフリカ北西部の山でした。そのことから、この辺りの山々をAtlas Mountains(アトラス山脈)と名付けられています。今のモロッコ、アルジェリア、チュニジアの辺りの山脈です。そして、その山脈の西側にある大きな海をAtlantic Ocean と言う訳です。
では、このアトラス山脈があるアフリカ大陸の8つの国名の由来を少し紹介しましょう。
先ず、西に突き出たところにセネガルがあります。その真西の大西洋上にカーボベルデと言う島で構成されている国があります。セネガルの南にガンビア、ギニアビサウ、ギニアと続きそしてシエラレオネと言う国がありその東側がリベリア、コートジボワールと続きます。英語のスペルは、Senegal、Cabo Verde 、Gambia、 Guinea Bissau 、Guinea、 Sierra Leone、 Liberia、Cote d’Ivoireです。これらは覚えにくい国名ですが、その由来を知るとスッと覚えることができます。この地域は大航海時代にポルトガル人が最初に進出したので、ポルトガル語で名付けられた国やフランス語が基になっている国が多いです。
Senegalは長い間フランス領でした。セネガル川を中心に発展してきた国ですが、セネガルは現地語で「我々の船」と言う意味があるそうです。Cabo Verde のCabo は「先端・岬」のことで、Verdeは「緑」です。このアフリカ大陸最西端は「緑の岬」と名付けられた訳です。Gambia は、現地に流れる「ガンビ川」が由来です。Guinea Bissauは、現地語で「黒人の土地」と言う意味ですが、赤道ギニアのようにギニアと言う国が他にもあるので、ハッキリと区別するために首都名のビサウも後ろに付けてGuinea Bissau を国名にしています。隣の国のただのGuineaは「黒人の国」と言う意味になります。次に、Sierra は「鋸の形をした山々」を指し、Leoneは英語にすると「 Lionライオン」です。ポルトガル人が住み始めた頃、この山々の奥から聞こえる雷鳴がライオンのうめき声に似ていたことから「ライオンの山」と名付けられたとのことです。シエラ(Sierra )は「山々」のことでした。そう言えば、米国のラスベガスの有るネバダ州にはシエラネバダと言う山脈があります。これはネバダの山々と言う意味です。スペイン南部にも同じ名称の山脈がありますから、当時のスペイン人にはその景色が本国の山々に似ていたので同じ名前を付けたのだろうと推測できます。因みにスペイン語でネバダは「降雪・積雪」と言う意味です。シエラネバダは「雪で覆われた山」のことだったのですね。次にLiberia は正に奴隷解放後に黒人をアフリカへ帰還するために誕生した国でした。そこで自由のLiberty からLiberiaと名付けられました。その首都も当時の合衆国大統領モンローに因みMonrovia モンロビアとなっています。Cote d’Ivoire はフランス領からの独立ですからフランス語での国名です。 Cote は「海岸」で英語ではcoastになります。de は英語のof、 Ivoireは「象牙」です。正に「象牙の海岸」となります。
次に、アフリカ大陸の直ぐ北にある欧州の一つポルトガルの国名の由来について説明しましょう。
英語ではPortugalとなります。国名の由来のキーは「Port」つまり「港」です。リベリア半島の西の端で、大西洋に直ぐに出ることが出来る大事な場所です。首都のリスボンの北にPortoと言う港町があります。これがポルトガルの起源です。その名の通りに、「港の国」と言う意味です。そして、ローマ帝国時代にこの西の端の場所はCale地方と呼ばれていました。PortのあるCale地方と言う事でポートカルと呼ばれ、時代と共に訛ってきてポルトガルとなったそうです。Portの原義は、ラテン語の「Porta」で意味は「門」です。宮殿の正門や大きな建物の玄関をPortalと言います。何も気にしないで使っている基礎英単語にimportant が有りますが、「大切な、重要な」の意味で良く使われる英単語です。im はin と同じで「中に」で、家での大切なものは普通門の外でなくて中に入れておきますよね。だから、門の中に入れて「大切に扱うべき物」と言う事からこの important と言う意味の単語が生まれました。漢字の方もちょっと調べてみましょう。「港」はひらがなにすると「みなと」で、これはもともと「水の門」でした。「~の」は形容詞を作りますから、「の」が同じ形容詞を作る「な」に変化して「みなと」となりました。中国で「みなと」の意味で使われていた漢字が「港」でしたので、日本ではこの漢字を訓読みで「みなと」としました。
以前の私のブログでキリストの弟子の名前に由来する英語名が沢山あることを書きましたが、最後に南米の地図を見ていて、そのキリストの弟子名につながる意外な事実を知りましたので紹介します。
サンサルバドルとかサンフランシスコとかサンタフェとか、「サン」と付く地名が世界中に多くあります。大体の場合、英語のSaintの意味で「聖 ~ 」のことを表します。スペルを見ると、Saint 、San 、Santa、 Satoと場所によって違います。英語のSaintを仏語、スペイン語、ポルトガル語にしたものです。大航海時代にアフリカや南米に広がったキリスト教文化の影響です。
そこで「サン」の付く地名の代表格であるチリの首都 サンティアゴ(サンチャゴ)を調べてみたら、Santiago の後ろの TiagoはDiego から変化した言葉で、何とキリストの弟子ヤコブ Jacob のスペイン語形だそうです。つまり、チリの首都を日本語にすると「聖ヤコブ」になるのです。キリスト教聖人の名前に由来する地名が世界中に溢れていることに驚きます。こんなに聖人の英語名が変化して違う発音になって存在していることが分かったので、インターネットでアマゾンより仏日、西日、萄日、伊日、独日、露日の外国語辞書を買ってしまいました。語源研究にはどうしても必要です。
これらの辞書が届いて本棚に入れて整理している時に、偶然FMラジオから「では、○○さんがアカペラで○○ソングを歌ってくれます」と言うDJの声が流れてきました。直ぐにアカペラって何語かと思って手に持っていたジーニアス英和辞書を開いてacapのページを見ると、a cappella できちんと載っていました。意味は「無伴奏で教会音楽の様式で(イタリア語より)」となっています。イタリア語から来た言葉だと分かったので、本棚に並べたイタリア語辞書を引くと、a は英語の前置詞のin、 to、 at、 with と同じ働きをすることが分かりました。つまり「~に、~で、~のように」の意味だと説明されています。次に、cappella を引くと何と英語のchapel のことで「礼拝堂」でした。つまり「礼拝堂で讃美歌を厳かに歌う様な気持ちで」が原義でした。成程、a cappellaは at chapel だったのです。国語辞典を開いて「アカペラ」を見ると、「礼拝堂風の無伴奏の合唱」と説明されています。単語の意味とその原義が分かると本当に面白いですね。
では、次回を楽しみにしていて下さい。